バス運転手のひとりごと

バス運転手の日々の奮闘を紹介します

珍客②

バスの車内というのは朝夕のラッシュ時を除き、学生さんが集団で乗ってきたり、酔っ払いのサラリーマンがひと目をはばからず大きな声でおしゃべりするとき以外は、ほんと静かなものです。

 

運転していて気になる音といえば、ヘッドフォンから漏れ聞こえてくるシャカシャカ音や、疲れて弱音をはいているようなバスのきしむ音。

 

こんな静寂の中、突然、キャー! ワー! ヒェー! と折り重なるように悲鳴が響き渡ります。

 

痴漢か、はたまたバスジャックかとあわててルームミラーで車内を確認。

 

すると、ドア付近に座っている女性が頭を抱えて座席にうずくまっています。

 

その後ろでは初老の男性が手に何かを握りしめ、大きくふりかぶり今にも前の座席でうずくまっている女性に襲いかかろうとしているではありませんか。

 

通路をはさんで座っていた女性があわてて立ち上がり、運転席の私に何か言いながら走り寄ってきます。

 

 

「う、運転手さん、ハチです!ハチが飛び込んできてます!」

と、慌てふためいた様子。

 

見ると一匹のハチが天井付近を飛び回っています。

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こんなかわいいんじゃなくて

 

 

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こんなグロテスクな奴!

 

お客様のためなら自分の命すら惜しまない正義感の強い私は、バスを緊急停車させ、そのハチの現れた現場に向かいます。

 

でもその前に・・・

 

刺されたら痛いだろうから、中ドアを開放しその珍客に出ていってもらう作戦を選択。

 

現場に到着すると、先ほど前の席の女性に襲いかかっていたように見えた初老の男性が、実はそのハチを退治しようとしていたのです。

 

手に持っていたのは丸めた新聞紙でした。

 

「退治したからもう大丈夫ですよ。ティッシュにくるんで座席の隙間にはさんでおいたから、運転手さんあとで処理しておいて」

 

私は、深々と頭を下げお礼をし運転席にもどります。

 

車内は割れんばかりの拍手喝采と、「ありがとうございます」「助かった」の喜びの声。

 

運行を再開し、その男性が降りる際にもう一度ていねいにお礼をし、降りていくうしろ姿を見送りました。

 

なんかカッコイイ。

 

 

その後、終点につき車内の忘れ物を見てまわります。

 

先ほどの人騒がせなハチの始末をしようと思い、シートの間に挟んであったティッシュを手にとり恐る恐る開いて見ると・・・

 

 

ハチがいない!!

 

どこ行ったん???